読書日記 2026/08

【本】 

・ゆめこ縮緬/皆川博子

・蝶/皆川博子

以前フォロワーに勧められた作品。幻想小説は好きで良く読むのだけれど、その良さを説明するのは難しい。小津夜景の言葉を借りるならば、幻想小説とは読んで理解するよりもまず浸るものであり、溺れるものであり、追いかけても追いかけても作品に手が届かないといった距離の感覚に圧倒されるものである。現実ではありえない、奇異で非日常的な世界。その美しい語彙と、その美しさの背後に隠されているグロテスクさはまさに夢としか言いようがなく、読む度に他人の夢を勝手に覗き見ているような感覚に陥る。

特に皆川博子の書くものは、声に出して読みたくなるくらいリズムの整った漢詩調の文章で、第二次世界大戦経験者だからこその命の軽さや当時の社会における女性の立場など非常にシビアなものが表現されているのだから読んでいてひりひりする。

皆川博子、御年98歳にも関わらず、今もハードカバーで新著を刊行しており、本当にすごい。永遠に小説を書いてほしい。



・コンビニ人間

某所で某人が読んでいたので。

一言で言うと怖かった。ホラーだと思った。

色々ツッコミどころはある、例えば何故主人公はコンビニバイトから社員にならないのかは純粋に疑問だった。主人公は人間が下手なだけで仕事が出来ないという訳ではないし、むしろコンビニスタッフとしての能力は高い。やるべきことはきちんとできるタイプの人間だから正社員として採用すれば順当に店長になれたと思う。

ただ本当に人間が下手で、周囲に合わせるために不在の時を狙ってロッカーを開け、メイクポーチの中身や靴のメーカーを調べるといった描写で社会的常識のなさを描写して見せるのは上手いなと思った。いや、小鳥で焼き鳥にしようというのもかなりインパクトがあったが。

社会が押し付ける正常さに対し、その表面上は適応してみせる主人公と白羽の対比を軸に話が進んでいく。白羽の主張があんまりにもあんまりすぎて正直気持ち悪かった。彼の出番があれ以上多かったら生理的に読み進められなかったと思う。

社会の押し付けてくる正常さに耐えられないというのは恐らく誰しも一度は少なからず感じていることであり、白羽のようにその価値観をある程度は内面化せざるを得ない。彼に影響されながらも、その上で主人公は人間になることをやめ、自分を正常な社会の歯車にしてくれるコンビニへと帰って行く。始まりこそ現代社会に溶け込めない「わたし」という、読者に自己を投影させるキャラクターではあった彼女は、完全に手の届かないところに行ってしまったな…、と感じた。

多分このまま主人公が正常になろうとして失敗したパターンの作品は昭和以前を舞台とした作品で多くあるだろうなと思った。ハッピーエンド、ではあるのだろうが、最初から最後まで怖かった。



・「クロック城」殺人事件/北山猛邦
・「ギロチン城」殺人事件/北山猛邦
・「瑠璃城」殺人事件/北山猛邦
・「アリス・ミラー城」殺人事件

活動歴が長くかつ多作である作家の作品を古いものから新しいものまで読むと学びが多いな、と感じた。これらは城シリーズと呼ばれているが、それぞれの話に関連はなく独立している。しかし順番に読むことによって北山がどんな作家なのかを理解することができる。

北山作品では、崩壊した世界とそこで発生する常軌を逸した殺人事件が描かれることが多い。何故こんなモチーフを多用するのかと思っていたら、デビュー作である「クロック城」殺人事件からそうだった。これが書かれたのが今から20年近く前なので、オルゴーリェンヌや「石球城」殺人事件と比べるといささか未熟な点が目立つものの、これが北山にとっての原点であり主題であることは間違いない。思うに彼が描く館ものは崩壊しつつある世界のメタファーであり、探偵の謎解きを以て世界は一つの終焉を迎えるのだろう。

あと間違いなくメフィスト賞作品だった。メフィスト賞以外での受賞はありえなかったと思う。

「クロック城」では首切り死体が登場するのだが、何故首を切ったその理由があまりにも人体をオブジェクトとしか見なしていなくてよかった。「アリス・ミラー城」の顔のない死体のギミックもそうなのだが、北山は生きているキャラクターには間違いなく愛情を注いで描写をしているものの、死体になった途端にそれは単なる物質へと変わる。そのシビアさと不一致がどうなっているのか不思議でならない。



・シチリア・マフィアの世界/藤澤房俊

十字路の実装を記念して。

同時期にコサックについての本を読んでいたこともあり、国による土地と税の支配があり、そこから逸脱した人々がイタリアにおいてはマフィアになり、ロシアにおいてはコサックになったのだと感じた。元々社会的弱者だった人々は生きていくために力を欲し、やがて公的権力さえも超越した組織になっていく。面白かったのが工業化に伴う変化によりマフィアの構造も変化し、より血も涙も仁義もないマフィアへと〝洗練〟されていくということだ。

イタリアは一時期かなり本気でマフィアを根絶しようとしていたのだが、結局はできなかった。何故なら国は国で非合法な手段を取れるマフィアをいいように利用しており、また国家権力の中枢にまでマフィアが食い込んでいたから。ということを踏まえると、一方ヌオバ・ウォルシーニは…という感じである。元々が弱者の自己救済のための組織だというのは間違いないのだろうけれど、一旦力を持ってしまうと組織が変質していくことは避けられない。そしてそれが弱者の受け皿だというのならば、自己救済ではなく社会が救済できるように福祉を充実させていくしかないのだろう。

面白かったのは、イタリア政府がマフィアを根絶するために力を入れていた活動の一つが教育であったこと。やはり教育と福祉が大切なのだろうけれど、それを行うにはまず国が豊かである必要があり…。


・教科書には、載せられない⁉君に綴る5つのパロディ

斜線堂有紀が寄稿していたので読んだ。表紙からてっきり子どもを対象にしたアンソロジーかと思ったのだが、全くそんなことはなかった。恩田陸の作品がかなり攻めている。五条紀夫の作品は安定してユーモアが効いていたし、「吾輩が猫である」は真相自体はそう難しくないものの論の詰め方が良かった。個人的には芥川龍之介の鼻をオマージュしたあをにまるの「髭」が良かった。欠点ってなくせばいいってもんでもないんだよね…。

勿論斜線堂有紀の作品も良い。というか作家の書く小説家小説って読んでいてかなりひりつくところがある。


・異形コレクション/骨董匣

黒木あるじ「ひくりのかっぱ」の二段オチにやられた。次はこういうギミックの話を書きたい。また「梅霞」を読んで思ったのだが、北沢陶、間違いなく小説は上手いのに物語としては及第点どまりになってしまうな…という印象。これはホラーなので全ての要素を無駄なく配置して伏線を回収する必要はないといえばないのだが、持て余している要素があると勿体ないなと思ってしまう。

個人的には芦花公園の「ヨブは問う」が一番良かった。これは聖書に書き込みをするとそれに対する回答がいつの間にか書かれており…という話で、その回答におけるキリスト教エミュが完璧だった。クリスチャンである芦花公園ならではの作品だと言えるが、成田良悟の台詞回しのように自分にはどう足掻いても書けないものをお出しされると素直に感動する。


・その他の危険

新名智の作品はそこまで読んでいないが、この人は本当に書きたいものがぶれない。物語ることによって変質する現実という芸風でこれからもやって欲しい。

個人的には梨の「ブルーライト」に一番驚いた。梨、こんな爽やかな青春ものも書けたのか…。



【ゲーム】

・他者の悲しみ/リバース1999

大陸で炎上したと聞いたので結構心配していたのだが、個人的には面白かった。ただ炎上する理由もわかる。もしンィーでフロストノヴァが実装されたら同じことが起こる気がする。


ver.3でやってきたメインストーリーやイベストの総決算に相応しい内容だった。ただ孤独の歌の壁は高い…。

まあ王道展開という意味ではこっちの方が好きかもしれない。敵勢力による拠点襲撃イベントは熱い。そして今まで出会ってきた皆で力を合わせ、第三勢力も共闘し、敵に立ち向かうという展開も熱い。


アルカナと財団の目指す方向の違い、リバースの向かう方向性がひとつ示された。それぞれが目指す理想の王国は、やはり単一の種族にとっての楽園なのだろう。それにヴェルティがどのように道を示すのかが楽しみ。対アルカナにおいては神秘術が役に立たず、ただ平時においては神秘術の方が便利、という辺りは、両者の協力こそアルカナを越えて先に至る鍵だと感じた。


今回でロペラとイゴールの再会、ストレンジャーの罪への向き合い方を描き、イゴールの罪と罰についてリーリャに詰めさせるんだから、Jとアンジョナナの関係の清算についても真面目にやってほしい。というかJが理想と現実の狭間で苦しみながらも真っ当に職務を全うしている姿を見て、早く財団を辞めてスーツケースに来いと思った。


リアンノンについて。

よりにもよってアトミックハートコラボでマキシムに対しヴェルティがあの発言をした後でこれが来るのか…。SNSで他の人の感想も見ていたのだが、確かに実装が早すぎるという思いはある。リバースの世界は強者であることを強いて来るので、何故ストレンジャーは彼女のまま実装されたのにメレルはそのままではいられなかったのか、というのは少し考えてしまう。メレルがストームに呑まれた後のメインストーリーで、リアンノンがヴェルティ達の危機に際し登場するという流れだったらまだ受け入れられたのかな…。でもそれは私たちの知っているメレルではないので、そんな救済に何の意味があるのかと思ってしまう。アクナイでも来世信仰の話をヒアダがしているけれど、結局現世で幸せになれなければ意味がないんじゃないですか?でも現世に期待が持てないなら来世に賭けるしかないよな…。



かなり個人的な話をするとプラヴィアンとイェルモーライとクレウスは実装されてほしいしトレミーも実装されてほしい。ver.4以降に期待。というかクレウスのトラッキングポーションがこんな風に琥珀の間と繋がって来るとは思わなかった。クレウス、隊員を心配しているようで全てを駒と見なしているようでもあり、かなり底が知れない。



今月は資格試験があり、あまり本が読めなかった。それもひと段落したので来月はもっと本を読みたい。


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