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読書日記 2026/10

  【本】 ・創作のルール最初の一行で読者を惹きつける技法/チャック・パラニューク 最近は創作論を作者の小説に対する哲学論として読んでいる。というかこの本に関してはチャック・パラニュークの小説家エピソードのインパクトがすごすぎて肝心の創作論的なところがほとんど頭に入ってこなかった。アメリカは日本よりも小説家本人のサイン会や朗読会が多いようで、そこでは様々なトラブルが発生する。腕や足にしたサインとタトゥーにするファンはまだ理解出来る方で、突然全裸になって局部にサインをしろと行ってくる人やハツカネズミの死体を投げ込んでくる人もいるようで、作品というものに作者は縛られるのだな…と感じた。あとスティーブン・キングのサイン会のエピソードもすさまじかった。サイン会会場を出て車で移動しているときにファンが追突してきて、出て来たところを囲まれたこともあるらしい。怖すぎる。 勿論創作論としても素晴らしい一冊で(勿論そちらが本論)アメリカで流行るエンタメについてのシビアな洞察が感じられた。あとやっぱりこう…プロの作家として筆で食べていくのって大変なんだなって…。 ・アクロイド殺し/アガサ・クリスティー 実はクリスティー作品をほとんど通ってこなかったので読んだ。犯人が誰かについては当たりがついたのだが、そこからの論の詰め方がわからなかったので、解決編は非常に良かった。というかこれを読んでようやく今まで読んできたミステリ作品のフォーマット(犯人は一人だが登場人物が殺人とは無関係にそれぞれ嘘をついている)がクリスティーに由来しているということがわかった。マダミスもこの形式のものが多く、久々にマダミスをやりたくなった。 ・誰がアクロイドを殺したか 実はこちらが本命。これはポアロの推理ミスをつつくというか、アクロイド殺しの真犯人について別の観点から考察するという作品。最初と最後の作中におけるポアロの推理の矛盾とそこから導き出される論理は納得できるのだが、途中の妄想とは何かについての件が何回過ぎて理解できなかった。あと数回は読まないと無理な気がする。来月の課題。 ・白髪小僧 ・二重心臓 ・押絵の奇蹟 ・悪魔祈禱書 他色々 私は所謂ドパガキでありSNS中毒なのだが、それを解決するための手段を思いついた。青空文庫である。人に勧められたこともあり、青空文庫にある夢野久作作品をあ行から順に読んでい...

読書日記 2026/09

【本】  ・きつねのはなし 読みながら先月読んだ北沢陶の小説が何故あんなに響かなかったのかについて考えていた。 良い小説の良いところというのは、水や太陽や大地と同じで、あまりにも当たり前だから返って気づかないのではないだろうか。 なので響かなかった小説の響かなかった点について考えることにする。 まず北沢陶の小説が上手いことは間違いない。情景描写は緻密だし登場人物もみんな生き生きとしている。特に大阪の商人を描かせたらこれ以上ないだろう。私は出身が東北なので判別がついていないだけかもしれないが、北沢が描く浪速の商売人は本当に生き生きとしている。 その上で、というよりそれだけに、先日の梅霞は作品全体として見たときにぴんとこなかった。梅霞は愛鳥の死をきっかけにおかしくなった男の話である。男の異変に関連するアイテムとして鳥籠と同業の男が出てくるのだが、これが要素として重複しているため短編として見たときに整合性が今一つになっている。 例えば愛鳥の死の原因が鳥籠にあるなら同業の男は要素として余剰だし、同業の男が主人公の狂気を加速させたというのなら鳥籠が伏線として回収できていない。どちらかだけでもこの物語は十分に成立したと思うので、それら二つが同時に投下されたことによりかえってどっちつかずになってしまっている。ここで鳥籠は元々同業の男の持ち物だった、というオチがつくなら一応の整合性は保たれるのだろうか。 というところまで考えて、ホラーというジャンルの難しさがあると思った。ホラーはミステリやサスペンスと近い領域にあるが、一つの特徴として説明しすぎないことがある。幽霊の正体はわからないほうが不気味だし、怪物は登場しない方が恐ろしい。しかし説明が全くないと、読んでいて不完全燃焼を起こす。 刀城言耶シリーズが面白いのは、ミステリとして成立していた物語に、最後に一点、説明不可能な点が残るからだ。その説明できない点にこそ、ホラーとは何であるかが宿っている。そういう意味で、大島清昭や上條一輝の作品はいささか説明をしすぎる傾向がある。いずれも怪異のルールを解明することで脅威に挑むという点に重きが置かれており、個人的には好きな書き方だ。だからこそ彼らはホラーではなくミステリだとか、ホラー特有の怖さがないだとか言われているのだろうが…。 ここで「きつねのはなし」に戻る。 これは主人公が天城とい...

読書日記 2026/08

【本】  ・ゆめこ縮緬/皆川博子 ・蝶/皆川博子 以前フォロワーに勧められた作品。幻想小説は好きで良く読むのだけれど、その良さを説明するのは難しい。小津夜景の言葉を借りるならば、幻想小説とは読んで理解するよりもまず浸るものであり、溺れるものであり、追いかけても追いかけても作品に手が届かないといった距離の感覚に圧倒されるものである。現実ではありえない、奇異で非日常的な世界。その美しい語彙と、その美しさの背後に隠されているグロテスクさはまさに夢としか言いようがなく、読む度に他人の夢を勝手に覗き見ているような感覚に陥る。 特に皆川博子の書くものは、声に出して読みたくなるくらいリズムの整った漢詩調の文章で、第二次世界大戦経験者だからこその命の軽さや当時の社会における女性の立場など非常にシビアなものが表現されているのだから読んでいてひりひりする。 皆川博子、御年98歳にも関わらず、今もハードカバーで新著を刊行しており、本当にすごい。永遠に小説を書いてほしい。 ・コンビニ人間 某所で某人が読んでいたので。 一言で言うと怖かった。ホラーだと思った。 色々ツッコミどころはある、例えば何故主人公はコンビニバイトから社員にならないのかは純粋に疑問だった。主人公は人間が下手なだけで仕事が出来ないという訳ではないし、むしろコンビニスタッフとしての能力は高い。やるべきことはきちんとできるタイプの人間だから正社員として採用すれば順当に店長になれたと思う。 ただ本当に人間が下手で、周囲に合わせるために不在の時を狙ってロッカーを開け、メイクポーチの中身や靴のメーカーを調べるといった描写で社会的常識のなさを描写して見せるのは上手いなと思った。いや、小鳥で焼き鳥にしようというのもかなりインパクトがあったが。 社会が押し付ける正常さに対し、その表面上は適応してみせる主人公と白羽の対比を軸に話が進んでいく。白羽の主張があんまりにもあんまりすぎて正直気持ち悪かった。彼の出番があれ以上多かったら生理的に読み進められなかったと思う。 社会の押し付けてくる正常さに耐えられないというのは恐らく誰しも一度は少なからず感じていることであり、白羽のようにその価値観をある程度は内面化せざるを得ない。 彼に影響されながらも、その上で主人公は人間になることをやめ、自分を正常な社会の歯車にしてくれるコンビニへと帰って行く...